前回、限界消費性向を0.7と仮定して計算してみましたが、現実の日本ではどうなのでしょうか。2010年の日本総研のレポートによると過去10年の限界消費性向の推計値が0.55だそうです。これで乗数を計算すると約2.2となります。10兆円がすべて公共投資だとすると、GDPの増加分は約22兆円、日本のGDPが500兆円ぐらいなので、4.4%ぐらいGDPを押し上げる効果があるという計算になりますね。

ただ、前回の議論で税金や原材料の輸入を無視しているので必ずしもこのとおりにはならないと思います。また補正予算10兆円と言われているのが全部公共投資かどうかもわからないという不確定要素もあります。国が直接お金をつかうのではなく、子供手当てのように家計にお金をばらまくというやり方の場合(政府移転支出といいます)、そこからいきなり貯蓄にまわるお金があるので、乗数は小さくなります。

今、財政出動で実質GDPがかさあげされたとします。では来年度、財政出動をやめたらどうなるのでしょう。また、元の実質GDPに戻ってしまうのでしょうか。景気のよい状態を保つには永遠に財政出動を続けなければならないのでしょうか。長期総供給曲線(Long-run aggregate supply、略してLRAS)について考えてみると、そうではないかもしれない、というのがわかります。


前に短期総供給曲線(SRAS)が右上がりになる理由として、物価が上下しても賃金はすぐに変わらないから、という説明をしました。しかし長期的に考えれば、いずれ賃金も物価に合わせて調整されることになります。極端なたとえですが、物価が10%上昇したのに合わせて、賃金・税金なども含めすべての物の値段が10%上昇したとしたらどうでしょう。それは実質GDPに何の影響も与えません。
というわけで、長期総供給曲線はこのように垂直になります。

図5_長期総供給曲線
この時の実質GDPを潜在産出量(または潜在GDP)といいます。
そして、LRAS上で総需要曲線と短期総供給曲線が交わり、長期的な均衡が達成されます。

図6_AS-ADの長期的均衡
実際の実質GDPは潜在産出量のまわりを行ったり来たりしていて、左側にいるときに不況不景気)、右側にいるときに好況好景気)であるといいます。
さて、これでやっと図1にもどれます。

図1_拡張的財政政策のAS-ADモデル
現在の日本のように不況の状態では、なんらかの要因(円高による輸出の減少とか)で本来AD2であるべき総需要曲線がAD1の位置にシフトしてしまっていると考えられます。なので財政出動をおこなって総需要曲線をAD2の位置に戻してやれば、財政出動を続けなくてもそこで安定すると考えられるのです(本当かっ?)。

ちなみに潜在産出量と実際の実質GDPの差のことを産出ギャップとかGDPギャップといいます。実際の実質GDPが潜在産出量の左側にある場合には特に不況ギャップ(またはデフレギャップ)、右側にある場合はインフレギャップといいます。
あと、図のタイトルに「拡張的財政政策」とありますが、財政出動とか減税とかおこなって、総需要曲線を右にシフトさせる政策のことです。反対は緊縮的財政政策です。

現在の日本の不況ギャップは内閣府が発表している2012年4-6月期2次速報後の推計で▲2.0%(金額にすると約10兆円(あれっ!?)ですね)とのことです。

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やっと財政出動の説明が終わりました。次からは金融緩和について勉強していきたいと思います。

つづく