前回まででIS曲線LM曲線を導き出したので、これを1つのグラフにまとめてIS-LMモデルを書いてみたいのですが、まず、復習のためにそれぞれのグラフを見ておきましょう。

IS曲線
図043_IS曲線(r)
LM曲線
図044_LM曲線(i)
あれっ。IS曲線の縦軸が実質利子率なのにLM曲線は名目利子率になってますね。
 実質利子率(r)=名目利子率(i)-予想インフレ率(πe)
の式を使って、IS曲線の縦軸を名目利子率に書き換えましょう。「IS曲線を導出してみる...のおまけ」に出てきたIS曲線の式はこんなでした。
 Y = C(Y - T) + I(r) + G
r = i - πeを使って書き直すと
 Y = C(Y - T) + I(i - πe) + G
です。πeは予想インフレ率です(フォントの関係でわかりにくいかもしれませんが「π」はギリシャ文字の小文字のパイです。円周率として使うアレです)。グラフにするとこうなります。
図045_縦軸を名目利子率にしたIS曲線(i)
縦軸に実質利子率をとったグラフのIS曲線を予想インフレ率の分だけ上に平行移動したものになります。例えば実質利子率r0の点であればπeだけ上にシフトしたiになります。
では、これでIS-LMモデルのグラフを書いてみましょう。
図046_IS-LMモデル(i)
右下がりのIS曲線と右上がりのLM曲線の交点で均衡して名目利子率と産出(=所得)が決まります。
IS-LMモデルができたので、これで財政政策、金融政策がどのような影響をおよぼすのかを分析します。まず、財政出動についてみてみましょう。それにはケインジアンの交差図にもどってIS曲線がどうなるかを確認します。
財政出動を行い政府支出がΔGだけ増加したとします。
図39_財政支出による産出の増加(ケインジアンの交差図)
計画所得は
 E = C(消費) + I(計画投資) + G(政府支出)
ですから、YにかかわらずGがΔGだけ増加し、Eも同じだけ増加します。グラフ上では青い計画支出の線が空色の線にシフトしたことになります。これにしたがって均衡点がAからCに移動し、産出がΔYだけ増加します(ケインジアンの交差図では利子率は固定されている前提です)。ΔYはΔGより大きく見えますね。どれぐらいになるのかΔYを具体的に求めてみましょう。まず計画支出線の傾きを考えます。これは所得(=産出)が1増えた時に計画支出がどれだけ増えるかですから、限界消費性向MPC:Marginal Propensity to Consume。詳しくはこちら)と等しくなります。ん?それって所得がC(消費)にだけ影響してI(投資)やG(政府支出)には影響しないってことでしょうか? 計画支出の式は詳しく書くと
 E = C(Y - T) + I + G
だったことを思い出してください(アンダーバーつきの記号は定数をあらわしています。C(Y - T)は消費が可処分所得Y-Tの関数であることを示します)。投資は実質利子率の関数であって所得の増減には影響を受けないというのがここでの仮定です。また、政府購入は政府の政策で決まってしまうので所得とは関係なく与えられるという前提なのです。
図39_財政支出による産出の増加(ケインジアンの交差図)
三角形ABDを考えます。ABは所得の増加分ΔYなのでBDはΔYに傾きをかけてΔY×MPCです。今度は三角形ABCを考えます。赤い現実支出線の傾きが45°ですからこの三角形はAB=BCの直角二等辺三角形になりますので、BC=ΔYです。するとDCの長さはBC-BDですからΔY-ΔY×MPCです。で、これがΔGに等しいので
 ΔG=ΔY-ΔY×MPC
となります。これを整理すると
数式5_乗数効果(ケインジアンの交差図)
あれっ、どこかで見たような式ですね。以前「乗数効果について勉強してみる」で政府が10兆円の公共投資を行うと
数式1_乗数効果
となるって書いてあった式の2行目と同じ形をしています。というわけで、乗数効果の式を別の方法で導き出したことになるのでした。
次にケインジアンの交差図とIS曲線の関係からIS-LMモデルがどうなるか見てみましょう。
図40_財政支出の効果(IS-LMモデル)
ケインジアンの交差図の分析でわかったことは(1)政府支出がΔG増えると、(2)利子率一定のもとで産出がΔG/(1-MPC)だけ増えるということでした。すると(3)IS曲線はΔG/(1-MPC)だけ右にシフトします。LM曲線との交点はE1からE3に移動し、(4)利子率はi1からi3に上昇、(5)産出(=所得)はY1からY3に増加します。
Y3-Y1がY2-Y1=ΔG/(1-MPC)よりも小さいことに注意してください。これは所得(=産出)が増加すると、人々がお金をより多く手元においておこうとするために、貨幣市場で需要が増加して利子率が上昇し(貨幣供給は一定の前提)、このために民間の投資増加を抑制してしまうためです。このように財政支出が民間の投資を抑制してしまうことを日本語で「押しのけ」を意味するクラウディング・アウトと呼びます。
乗数効果について勉強してみる」でGDPがどれだけ増えるかについて勉強した時は暗黙のうちに利子率が一定であることが仮定されていたのですね。IS-LMモデルによって、より正確な分析ができるようになったというわけです。

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なかなかアベノミクスまでたどり着きませんね。次回は金融政策をIS-LMモデルで分析します。

つづく

2013/4/13
修正して再公開しました。