それではアベノミクスの第1、第2の矢「大胆な金融緩和」と「機動的な財政政策」の効果をIS-LMモデル上で分析しましょう。
図048_アベノミクスの効果1(i)

ちょっとこのグラフおかしい、って思いましたか。縦軸が名目利子率なのにマイナスの領域を点線で書いています。もちろん名目利子率はマイナスにはなりませんが、どうしてもi1のレベルをグラフに入れたかったのです。i1はアベノミクス以前の状態で実質利子率=0%に対応する名目利子率をあらわしています。この時点ではデフレなので人々はこの先も物価は下がり続けると予想しています。したがって予想インフレ率はマイナスです。
名目利子率(i)=実質利子率(r)-予想インフレ率(πe)
なので、実質利子率が0%のときには名目利子率はマイナスになってしまいます。ところが名目利子率はマイナスになれない、つまりデフレの状態では実質利子率は0%まで低下することができないということを意味しています。

アベノミクスによる重要な変化は予想インフレ率がプラスになることです。この時の実質利子率=0%に対応する名目利子率をi2であらわしています。逆に言うと、日銀が金融緩和をつづけて名目利子率=0%であるなら、実質利子率はマイナスになることを意味します。グラフ上では実質利子率=0%に対応する名目利子率がi1からi2に上昇することであらわされています。

ではどうしてアベノミクスで予想インフレ率がプラスになるのでしょうか。ひとつは2%のインフレ目標日銀と政府の間の共同声明で明確にうたったことです。インフレ目標はまず円安を誘発します。このメカニズムについては経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員の山崎元氏の記事からちょっと長いですが引用させてもらいましょう。

投資家にとって、将来の物価変動は不確実だ。上昇する可能性と下落する可能性の両方がある。これは、誰もが認める点だろう。

問題は、将来物価が小幅であっても、上昇した場合に何が起こるかだ。この場合、インフレ目標が0%あるいは1%であれば、中央銀行が金融緩和政策を止める可能性があるし、福井総裁時代のゼロ金利解除のように短期金利が引き上げられる可能性がある。しかし、インフレの目標値が2%だと明確になっていれば、こうした可能性はかなり遠のく。

これは、確率的に評価した将来の実質金利の期待値の低下を意味する。また、現実的な問題として、ほぼゼロの短期金利で金利の上昇を心配することなく円資金を借り続けることができる期間が、より長くなることをも意味する。

為替市場にとって、将来の実質金利の低下は円安材料だし、後者は、低金利の円を借りて、外貨建ての資産に投資する「キャリー・トレード」をよりやりやすくする効果を持つので、共に合理的円安材料だ。

少し補足すると、日本国内の実質金利が低下するとお金を円で運用するよりドルやユーロなど他の通貨で運用するほうが有利になるので円を売ってほかの通貨を買う人がふえて円安になるということです。円安になれば輸入物価が上昇するので、当然人々はインフレ予想をもつことになるでしょう。
金融緩和とインフレ率の関係については、嘉悦大学教授の高橋洋一氏が「現在のマネーストックが2年後のインフレ率を決める」「マネーストックはマネタリーベースと正の相関がある」「2年後の賃金上昇率も現在のマネーストック増加率で決まる」というような説を述べています。ただ市場や世の中の人々が高橋氏の説をもとにインフレ予想をするかといわれるとそんなことはないでしょう。しかし、ばくぜんと「金融緩和するってことは日銀がジャブジャブにお金を供給するってことだからお金の価値がが下がって物価が上がるのかな~」ぐらいの気持ちにはなるかもしれません(なんとなく貨幣数量説(物価水準は貨幣供給量で決まる)みたいな)。
インフレ予想を引き起こすもう一つの要因は第2の矢の財政出動です。2012年度補正予算13兆円のうち約10兆円が公共事業ですが、これがAS-ADモデルで総需要曲線を右にシフトさせて物価水準を上昇させることが予想されるのです。
図048_アベノミクスの効果1(i)

ここで名目利子率で書いたIS曲線の式を思い出してください。
 Y = C(Y - T) + I(i - πe) + G
グラフ上で垂直な線(Yが一定)を考えると予想インフレ率πeが増加すると、Yを一定にたもつ(つまりIを一定にたもつ)には同じだけ名目利子率iが増加しなければならないことがわかります。つまりπeの増加分(=i2-i1)と同じだけIS曲線が上にシフトするのです。これによりIS1の位置にあったIS曲線がIS2にシフトすることになります。このシフトは日銀が政策をなにも変更しなくても、人々の予想が変わっただけで瞬間的におこります。そして均衡点がE1からE2に移ります。
そして次に第2の矢の財政出動の直接の効果でIS曲線がIS2からIS3にシフトし、均衡点がE3にうつります。前の記事で紹介したクラウディング・アウト(政府支出の増加によって利子率が上昇し民間の投資が抑制される現象)はLM曲線が名目利子率=0%の線にはりついているためおこりません。グラフでは便宜的にE3での産出がちょうど潜在産出量に等しくなっているように書いていますが、均衡点と潜在産出量の関係については量的な分析をしてみないとはっきりわかりません。

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やはり縦軸が名目利子率だと説明がむずかしいですね。次回は縦軸が実質利子率をもつIS-LMモデルのグラフを導入してみましょう。 

つづく

2013/4/13
大幅に修正して再公開しました。