IS-LMモデル関連記事の修正と再公開が一段落したので、あらためて私が何をまちがったのかを明らかにしてその影響について考察してみます。

まず、何をまちがったのかという点ですが、IS-LMモデルの縦軸は標準的には名目利子率なのですが、これを実質利子率とあやまって理解していたことです。私が現在教科書として使っているマンキュー マクロ経済学 のIS-LMモデルの説明では基本、縦軸は単に「利子率」となっていて名目か実質か明確にしていません。利子率をあらわす記号も通常名目利子率をあらわすiではなく実質利子率をあらわすrとなっています。私はこれを「IS曲線の導出に出てくる投資関数はあきらかに実質利子率の関数なので、IS-LMモデルに出てくる利子率はすべて実質利子率にちがいない」と思い込んでしまったのです。

ところがある日、欄外の注に「より正確には、貨幣需要を決定するのは名目利子率であり、投資を決定するのは実質利子率である。事柄を簡単にするため、実質利子率と名目利子率の差である期待インフレ率を無視している」とあるのを発見して青くなりました。アベノミクスの分析では期待(予想)インフレ率こそが重要なので無視するわけにはいきません。さらによく読んでみると、後ろのほうのデフレの説明の部分に期待インフレ率πeを導入し、IS曲線、LM曲線ともに名目利子率の関数として書きなおした式についての記述が短いながらもあったのです。

最初に考えたことは「縦軸が名目利子率でも実質利子率でも予想インフレ率の分だけ上下にシフトするだけだからそんなに大きな問題ではないんじゃないか」ということでした。まずIS曲線に関してはもともと実質利子率の関数なので問題ありません。ではLM曲線はどうでしょう。LM曲線の導出に使われる利子率の流動性選好モデル(利子率が低下すると貨幣需要が増加する)が名目利子率の関数であって、実質利子率の関数ではないというのが本当かどうか検討してみました。
(1) 名目利子率10%、予想インフレ率0%、実質利子率10%
のケースと
(2) 名目利子率10%、予想インフレ率10%、実質利子率0%
のケースで100万円の現金を保有している場合と100万円分の債券を購入した場合の1年後の価値を比較してみます。
(1)のケースでは現金の名目価値は100万円、実質価値も100万円。債券の名目価値は110万円、実質価値も110万円です。
(2)のケースでは現金の名目価値は100万円、実質価値は100万円/1.1=約91万円。債券の名目価値は110万円、実質価値は110万円/1.1=100万円です。
これで、現金と債券の実質価値を(1)と(2)で比較してみると、
(1) 現金:債券=100万円:110万円=10:11
(2) 現金:債券=約91万円:100万円=10:11

もし貨幣需要が実質利子率の関数なのであれば、実質利子率の高い(1)のほうが債券の価値が高くなる(なので、貨幣需要が減少する)はずです。ところが実際には(1)と(2)で現金と債券の価値の比率は等しく、実質利子率の関数ではないということがわかります。
この関係を記号を使って一般化してみます。
i:名目利子率、πe:予想インフレ率、i-πe:実質利子率、O:元本
とすると、
現金の1年後の名目価値はO、実質価値はO/(1+πe)
債券の1年後の名目価値はO×(1+i)、実質価値はO×(1+i)/(1+πe)
現金:債券=O/(1+πe):O×(1+i)/(1+πe)=1:1+i
となり、現金と債券の価値の比率は実質利子率ではなく名目利子率で決まる、つまり貨幣需要は名目利子率で決まるということが明らかになってしまいました。

というわけでこれは書き換えなければいけないと思い、関連記事を非公開にし、おわびを掲載することにしたのです。
大きく書き換える必要があったのは「IS-LMモデルでアベノミクスの効果を分析してみる」でした。縦軸が名目利子率だと予想インフレ率の変化でシフトするのはLM曲線ではなく、IS曲線になるからです。ただ、これだと「実質利子率が高止まりしているので産出が増えない」とか「インフレ予想で実質利子率がマイナスになって産出が増加する」といったアベノミクスの要点が見えにくいと思われたため、新たに「アベノミクスをもっと理解するために縦軸が実質利子率のIS-LMモデルを書いてみる」で正しい手続きをふんで縦軸が実質利子率のIS-LMモデルを導入してみました。

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まちがいを指摘してくれる先生がいないというのか独学者のつらいところです。