前回、物品税(や消費税)に関して、買い手が支払うと考えようが、売り手が支払うと考えようが、実質的にかわりはないと書きました。しかし実は、物品税を課税する以前の価格と課税後の価格を比較することで、売り手と買い手がそれぞれどれだけ負担しているかを明らかにすることができます。
下のグラフを見てください。このグラフは市場需要曲線、市場供給曲線、税率などは前回勉強したグラフと同じですが、余剰の図示などを省略しています。
図0097_基準のグラフ
課税前では価格はp0で、買い手はp0を支払い、売り手はp0を受け取ります。課税後ではどうでしょう。買い手は税金を含んだpbを支払い、売り手はpbを一時的に受け取ったあと、pb-psの税金を納税し、psが税引後の売り上げとなります。簡単にもう一度くりかえすと、買い手はpbを支払い、売り手はpsを受け取るということです。これを課税前の価格p0と比較すると、買い手はpb-p0だけ高い金額を支払う必要があり、売り手はp0-psだけ安い金額しか受け取れないということになります。ですから、政府が受け取る1単位当たりの税額(つまり税率ですが)pb-psのうち、買い手がpb-p0を、売り手がp0-psを負担している、と考えることができます。
上のグラフではたまたまpb-p0とp0-psがほぼ等しいようにかかれていますが、これは市場需要曲線と市場供給曲線の傾きによって変化します。これらの曲線の傾きに密接に関連している概念が価格弾力性です。
一般に「Xが変化したときに、それにともなってYがどれくらい変化するか」をあらわす量を「YのX弾力性」と呼びます。したがって、価格が変化したときにどれくらい需要が変化するかを表す量を需要の価格弾力性(price elasticity of demand)、価格が変化したときにどれくらい供給が変化するかを表す量を供給の価格弾力性(price elasticity of supply)と呼びます。ただし、当面は価格弾力性のことを話題にしているので、価格弾力性のことを単に弾力性という場合もあります。
需要の価格弾力性はギリシャ文字ε(イプシロン)であらわします。定義は以下のとおりです。
 ε = 需要の増加率(%) ÷ 価格の下落率(%)
弾力性の数値が大きいことを「弾力的である」といい、小さいことを「非弾力的である」といいます。
たとえば、コメの価格が下がると今までパン、うどん、そばなどを食べていた人がコメを食べるようになるのでコメの需要は増加します。とはいえ、一人の人間が主食として食べるコメの量には限界がありますので、いくら安くなっても際限なく需要が増加することはありません。また全く食べないというわけにもいかないので価格が高くなっても需要はそれほど大きく減少しません。したがってコメの需要は非弾力的だということができます。
需要が非弾力的だとどうなるかグラフをみてみましょう。
図0098_非弾力的な需要曲線
図97と見比べてください。青い市場需要曲線は価格の変化に対して数量の変化が小さいので傾きが大きくなっています。税率は同じですから線分FGの長さ(=pb-ps)は同じです。しかし、図97と比較するとpb-p0が大きく、p0-psが小さくなっているのがわかります。つまりこの場合、買い手の負担が大きく、売り手の負担が小さいということです。もうひとつ図97と比較して気がつくのは灰色三角の面積であらわされている死荷重が小さいということです。

次にダイヤモンドについて考えてみましょう。こういったぜいたく品は価格が高すぎると思えば全く買わなくても生きていくには困りませんし、好きな人にとってはいくらあっても多すぎて困るということがありません。したがってダイヤモンドの需要は価格弾力的だと考えられます。
需要が弾力的だとどうなるかグラフをみてみましょう
図0099_弾力的な需要曲線
図97と見比べると青い市場需要曲線は価格の変化に対して数量の変化が大きいので傾きが小さくなっています。税率は同じですから線分FGの長さ(=pb-ps)は同じです。図97と比較するとpb-p0が小さく、p0-psが大きくなっています。つまりこの場合、売り手の負担が大きく、買い手の負担が小さいということです。それと灰色三角の面積であらわされている死荷重が大きいことにきづきます。

次に供給の価格弾力性についてみてみましょう。
供給の価格弾力性はギリシャ文字η(エータ)であらわします。定義は以下のとおりです。
 η = 供給の増加率(%) ÷ 価格の上昇率(%)
どのようなものの供給が価格弾力的で、どのうようなものが価格非弾力的なのか、具体的な例が思い浮かびませんが、完全競争市場では限界費用曲線=供給曲線なので生産量が増えるにつれて限界費用が急激に大きくなるようなものは非弾力的、生産量が変わっても限界費用があまり変わらないようなものは弾力的だといえます。
では供給が非弾力的なばあいのグラフをみてみましょう。
図0100_非弾力的な供給曲線
図97と見比べると赤い市場供給曲線は価格の変化に対して数量の変化が小さいので傾きが大きくなっています。税率は同じですから線分FGの長さ(=pb-ps)は同じです。しかし、図97と比較するとpb-p0が小さく、p0-psが大きくなっているのがわかります。つまりこの場合、売り手の負担が大きく、買い手の負担が小さいということです。灰色三角の面積であらわされている死荷重は小さくなっています。

次に供給が弾力的なばあいのグラフです。
図0101_弾力的な供給曲線
図97と比べて赤い市場供給曲線は価格の変化に対して数量の変化が大きいので傾きが小さくなっています。税率は同じですから線分FGの長さ(=pb-ps)は同じです。pb-p0は大きく、p0-psは小さくなっています。つまりこの場合、買い手の負担が大きく、売り手の負担が小さいということです。灰色三角の面積であらわされている死荷重は大きくなっています。

需要、供給がそれぞれ非弾力的、弾力的である場合の4つのケースについてみてきました。まとめると、売り手と買い手でより非弾力的なほうが負担が大きいということ。そして需要や供給が弾力的であるほど課税による死荷重が大きくなるということです。

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このブログを始めて1年が経ちました。最近ちょっとモチベーションが低下気味ではありますが、続けられるところまで続けたいと思います。

つづく