前々回までに勉強してきた物品税(従量税で完全競争市場での売買)の知識をもとにして日本の消費税(以下たんに消費税といいます)について考察しています。前回
 1.従価税であること
 2.需要の価格弾力性が異なること
について考察しました。今回からは
 3.消費税は多段階課税である
ということについて考察してみましょう。ただし、この考察は(まあ前回の2もそうだったんですが)教科書にのっているものではなく、私が独自に考えたものですので、どこかまちがっているかもしれません。そこのところを心にとめてもらった上でお読みください。

まず、多段階課税について復習しておきましょう(前回の3も参照してください)。消費税では、取引のあらゆる段階で課税されます。ビールの例でいうと、農家が原料の大麦やホップをビールメーカーに売ったとき、ビールメーカーがビールを問屋に売ったとき、問屋が小売店に売ったとき、小売店が消費者に売ったときと各段階でそれぞれ課税されます。ただし、前の段階の税金にさらにだぶって課税することがないように前の段階までに課税されている分の差し引いて課税します。例えば税率が5%のとき、農家が大麦とホップを10,500円(税抜き価格10,000円)でビールメーカーに販売し500円を納税したとすると、ビールメーカーが税抜き価格20,000円で問屋に売るときは消費税として20,000円の5%の1,000円を納めるのではなく農家が納税した500円をさしひいた500円を納税することになります。このような仕組みを多段階課税といいます。これに対して通常の物品税である酒税はビールメーカーが問屋に売った時点でのみ課税されます。これを単段階課税といいます。

多段階課税についてちょっと見方を変えてみると、ビールメーカーは税抜き価格で10,000円の原料を仕入れて、それをビールという製品に加工することで10,000円の付加価値をつけ、税抜き20,000円で問屋に販売するので、ビールメーカーが払う消費税の500円というのは、ビールメーカーが生み出した付加価値に対して5%が課税されていると考えることもできます。日本の消費税にあたる税制がヨーロッパなどで付加価値税(Value-Added Tax、略してVAT)と呼ばれているのはこれが理由です。

さて、多段階課税について分析するために原材料(例えば大麦)の市場とその原材料を使って生産される製品(例えばビール)の市場の2つの市場を組み合わせたモデルを考えてみましょう。まず税金のないシンプルなグラフを書いてみます。
図0108_2段階市場モデル
まず上の製品市場のグラフをみてください。普通の需要供給曲線のグラフです。青い線が需要曲線、赤い太線が供給曲線です。そして、緑三角Aが消費者余剰、黄色三角形Bが生産者余剰をあらわしています。通常の需要供給曲線のグラフにひとつだけ余分なものが追加されているのが赤い細線です。これは原材料の一単位あたりの費用をあらわしています。赤い太線でかかれた供給曲線はいいかえれば製品の限界費用曲線ですから(くわしくはこちら)、赤い太線と赤い細線の差は原材料以外の(限界)費用(人件費など)をあらわしています。
次に下の原材料市場のグラフをみてみましょう。ここでひとつの仮定をおいています。

(仮定)この原材料市場で取引されるモノは全て上のグラフであらわされる製品市場で使われる。したがって、原材料市場での需要は製品市場での取引量によって決定される。

上の製品市場で青い需要曲線と赤太線の供給曲線の交点で取引量はX0となります。このX0の製品を生産するために必要な原材料の量は下のグラフでやはりX0とあらわしています。え?X0トンの大麦からX0トンのビールができるんですか? いえいえ、そうではありませんが、1トンの大麦から10トンのビールが生産できるとすると、例えば「大麦トン」という新しい単位を作ってやって
 10トン=1大麦トン
と定義してやれば、1トンの大麦から1大麦トンのビールが生産できることになり、上のグラフと下のグラフの横軸の目盛りを合わせることができるようになります(実際には目盛りは書いていませんが)。というわけで、下の原材料市場の需要曲線は垂直な線としてあらわされています。赤線は供給曲線です。上のグラフと下のグラフでは縦軸の目盛りも同じにしてありますので下のグラフの供給曲線は上のグラフの細い赤線(原材料の一単位あたりの費用)とまったくおなじものです。そして黄色三角B'は原材料市場での生産者余剰です。
図0108_2段階市場モデル
あれ? 原材料市場の消費者余剰はどこに行ってしまったんでしょうか? 需要曲線が垂直では消費者余剰をあらわすことができないじゃないですか。うーん、むりやりにでも需要曲線を斜めに書いたほうがいいんでしょうか(E'で供給曲線とまじわるように)。でも、そうする必要はないと考えました。なぜかというと、原材料市場での消費者とはすなわち製品市場での生産者です。消費者余剰というのはそれを買ったときの便益(それを買うために最大限払ってもいいと思う金額)と購入価格の差だったことを思い出してください(くわしくはこちら)。原材料を買うときに最大限払ってもいい金額ってなにかというと、結局それで製品を作ってその製品が売れたときに利潤がゼロになるような原材料の価格ということになります。そして消費者余剰はその価格から実際に原材料を購入した価格をひいたものですから、製品が売れたときにはその分がもうけ(利潤)となります。ところで、製品市場での生産者余剰も製品が売れたときの利潤と等しいので、もし原材料市場のグラフに消費者余剰をかいてしまうと、製品市場での生産者余剰と二重にカウントすることになってしまいます。というわけで原材料市場のグラフに消費者余剰をかく必要はないと判断しました。
この製品市場のグラフと原材料市場のグラフを組み合わせたものを2段階市場モデル(仮)と呼ぶことにします(私がかってにそう決めました)。

今回はここまでにしましょう。次回からこの2段階市場モデル(仮)を使って消費税の分析をしていきます。

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親知らずが痛くて寝込んだりしていたこともあり、前回から1ヶ月近くあいてしまいました。

つづく