今回からは理想的な電力システムの3つめの条件

3. 環境への影響がすくないこと

について勉強していきます。
ここでは、2つのテーマにしぼってみていきます。それは二酸化炭素の排出削減と、ひとたび事故がおこれば環境に大きな影響をあたえる原子力発電所をどうするか、ということです。では二酸化炭素からいきましょう。

3-1. 二酸化炭素の排出量を削減する

と、ここまで書いたところで、この話をすすめるには前提として外部不経済ピグー税について勉強しておく必要があることに気がつきました。というわけで今回は急きょ「外部不経済とピグー税について勉強してみる」ということにします。

ある企業が生産を行うことによって市場を通さず直接他の企業や人の費用を増加させることを外部不経済(external diseconomy)を発生させている、または負の外部効果がある、といいその費用のことを外部費用(external cost)といいます(あまり正確ではないかもしれませんが、とりあえず「企業の生産活動で発生している費用なのに、その企業が負担しない部分を外部費用という」と思ってもらっていいと思います)。外部不経済の典型的な例が公害です。

ある企業の工場でなにか製品を作っているとします。その製品をつくるための原料を購入する費用や労働者への賃金はその企業が負担しますね。一方その工場が出す煙が原因でまわりに住んでいる人たちが病気になったとしましょう。病気になった人はその病気を治療するために病院へいって治療費をはらいます。この治療費もその製品を作るために発生した費用ですが、この企業はその費用を負担せず、直接他人の費用を増加させていますので、これは外部費用です。
その企業の生産活動によって自社を含むすべての企業・人に発生させる費用の総計を社会的費用(social cost)といいます。生産量に応じて自社が負担する費用はその企業の可変費用なので
 社会的費用 = 可変費用 + 外部費用
となります(固定費用は生産してもしなくても発生するので無視します)。

逆に、ある企業の経済活動によって市場を通さずに他の人の効用や他の企業の利潤を増やす場合、その経済活動は「外部経済(external economy)を発生させる」あるいは「正の外部効果がある」といいます(あまり正確ではないかもしれませんが「企業の経済活動の結果発生する良い効果のうち、その企業が収入として受け取らない部分を外部経済または正の外部効果という」というとわかりやすいでしょうか)。たとえば、養蜂場の近くに果樹園ができるとその養蜂場では今までより多くの蜂蜜がとれるようになる、といった場合です。

外部不経済について余剰分析をしてみましょう。
まず、下のグラフをみてください。
図0140_生産者余剰と限界費用
ある企業がある製品を生産しています。その製品は完全競争市場で取引されているとします(つまり価格は市場からあたえられます)。右上がりの赤い曲線が限界費用曲線で水平の価格線と数量Q0、価格P0でまじわっています。以前勉強したように、黄色で表された部分の面積が生産者余剰(生産者にとってのトク)で数量Q0を生産するときに最大になります。ここでの限界費用曲線はその企業が負担する費用だけをあらわしていますが、実はこの製品の生産によって公害がおき、外部費用が発生しているとします。では外部費用をグラフに重ねて書いてみましょう。
図0141_社会的限界費用と社会的余剰
簡単にするために生産量1個あたりの外部費用はXで生産量によらず一定だと仮定しています。ピンク色の曲線と赤い曲線にはさまれた部分が外部費用です。企業が1個追加で生産するときの社会的費用の増加分を社会的限界費用(social marginal cost)といい、これをグラフ上であらわしたピンク色の曲線は社会的限界費用曲線(social marginal cost curve)と呼ばれます。なお、企業が負担する限界費用を社会的限界費用(曲線)と区別するために私的限界費用(曲線)(private marginal cost (curve))ということがあります。

生産量がQ0のとき、この製品の生産から得られる社会全体のトク(社会的余剰、social surplus)は黄色の部分から灰色の部分を差し引いた面積になります。生産量が0からQ1の範囲では社会的限界費用より価格(=限界便益。1個追加で生産したときに消費者が得る便益(注1))の方が大きいので社会的限界余剰(企業が1個追加で生産するときの社会的余剰の増加分)はプラスですが、Q1からQ0では価格より社会的限界費用の方が大きいので社会的限界余剰はマイナスになるからです。これはつまり灰色ぶんだけ社会的余剰(社会全体のトク)が減少しているということです。

(注1)
以前勉強したように、ある製品からどのくらいの便益を得る人がいるかを集計してグラフにしたものが需要曲線です。市場需要曲線は右下がりですが、完全競争市場だと仮定しているので、1つの企業が直面する需要曲線は水平で(つまり1つの企業が単独で生産量を調整しても価格を変えることはできません)、それは価格線(価格をあらわす水平な線)と一致します。これは1個追加生産すると価格分だけ消費者が得る便益が増加することを意味しています(つまり 限界便益=価格 です)。

社会的余剰を最大にする生産量はいくつでしょうか。わかりますよね? それはQ1です。ではこの企業にQ0ではなくQ1だけ生産させるにはどうすればいいでしょうか。Q1以上生産してはいけないという規制を政府がかければよいでしょうか。それもひとつの手ではありますが、現実にはむずかしいのです。それはQ1を決めるのには、外部限界費用はもちろん、内部限界費用もわからなければなりません。外から企業内部の費用を知ることは困難ですし、企業に費用の開示をもとめたとしてもウソの費用をいうかもしれません。それよりいい方法があります。それはこの企業に対して製品1個あたり外部費用Xと同じ額の税金をかけるのです。もういちど先ほどのグラフをみてください。
図0141_社会的限界費用と社会的余剰
1個あたりXの税金をかけると、私的限界費用曲線がXだけ上にシフトして社会的限界費用曲線と一致します。すると企業は生産者余剰を最大(=利潤を最大)にするためにはQ1だけ生産すればよいことになります。
現実的には外部費用を見積もるのもなかなかむずかしいことが多いですが、すくなくとも企業の内部費用を正確に知る必要はなくなります。このような税金のことを発案者のアーサー・セシル・ピグー(Arthur Cecil Pigou)にちなんでピグー税といいます。また、ピグー税などによって外部費用を企業内部の費用に変えてしまうことを外部費用の内部化とよんでいます。

注意が必要なのは「この製品を作ると公害が発生するからいっさい生産してはいけない」ということにしてはならない、ということです。まずはその製品から得られる便益と社会的費用のバランスをとって社会的余剰を最大にすることが重要なのです。公害の発生に税金がかけられていれば、公害を出さないような技術開発が促進されます。そのような技術が現われたらその技術を採用している企業に対してはピグー税を軽減していけばよいのです。いきなりいっさいの生産を禁止しまったら、その製品から得られるはずの便益がなくなってしまいますし、技術の進歩もおこりません。

2015/4/30
わかりにくい記述が多かったので補足しました。また、若干まちがった記述があったのを修正しました。


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先週は福岡地裁で高浜原発の再稼働を認めない仮処分決定がありましたが、今週は鹿児島地裁が川内(せんだい)原発の再稼働差し止めを却下しました。裁判所によって判断がわかれたわけですが、今後どうなっていくのか、なりゆきを見守りたいと思います。

つづく