今回は「理想の電力システム」と現実とのギャップについて環境への影響を減らすという観点でみていきましょう。

以前の記事の中で理想的な電力システムが環境への影響を減らすためにするべきこととしてあげたのは以下の項目でした。

3. 環境への影響がすくないこと
3-1. 二酸化炭素(CO2)の排出量を削減する
3-1-1. CO2の排出に対して炭素税をかける
3-1-2. 炭素税の税率を世界標準レベルに引き上げる
3-2. 原子力発電を適切に使用する(または使用しない)こと
3-2-1. 原子力発電に適切な額の保険をかけて、電気料金に上乗せする
3-2-2. 使用済み核燃料の引き取り価格を決定し、電気料金に上乗せする


小項目のレベルで上から見ていきましょう。まず
3-1-1. CO2の排出に対して炭素税をかける
ですが、これはすでに実施されています。に書いたように、2012年10月から「地球温暖化対策のための税」という名目で「石油石炭税」の税率にCO2排出1トンあたり289円を上乗せするという形で導入されています。ただし、いきなり289円上乗せではなく、段階的に増やしていくようになっていて、2012年10月、2014年4月、2016年4月と3段階で約1/3づつ上乗せして2016年4月に最終的に289円になるようになっています。石油石炭税の対象は原油・石油製品(ガソリン、軽油、重油を含む)、LPG、LNGなどのガス、そして石炭ですが、ガソリンに関しては石油石炭税以外に揮発油税、軽油には軽油取引税が課税されていて、これらを合計すると、CO2排出1トンあたりの課税額はガソリンでは24,241円、軽油13,486円、重油1,068円、石炭590円、天然ガス689円となります(2016年4月以降の課税額)。「地球温暖化対策のための税」だけでなく今まで課税されていた石油石炭税・揮発油税・軽油取引税なども炭素税として働くので、この金額で考える必要があります。燃料によらず、CO2排出1トンあたりの課税額を同じにすることが理想ですが、なぜか石炭が優遇されていることがわかります。先日(2015年6月12日)環境大臣が山口県で計画されている石炭火力発電所が「CO2削減に支障が出る」という理由で「是認しがたい」という意見書を提出した(こちら)そうですが、そんなこと言う前に石炭に対して炭素税をきちんと課税するべきです。
次に
3-1-2. 炭素税の税率を世界標準レベルに引き上げる
ですが、今のところこれ以上(CO2排出1トンあたり289円)炭素税を高くするという話は出ていないようです。ただしこの施策に関しては問題があると感じます。教科書によれば「EUなみに引き上げることが必要」ということですが、具体的にいくらぐらいにすればいいかは書いてありません。そのEUにしても国ごとにばらばらで、さらに燃料の種類によっても大きくちがう(そしてなぜかどの国も石炭は安い)ので、「EUなみ」といってもいくらにすればいいのかわかりません。私の個人的な意見としては国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)のようなところで、炭素税をいくらにしようということを話し合った上で目標を設定し(もちろん燃料の種類によらず一定の税率とします)、各国はそこにむけて国内の税制を変更していく、というような取り組みが必要だと思います。そうしないと、例えばイギリスでは炭素税が高くて生産には不利なので、炭素税の安い新興国に生産拠点を移すといったことがおきたり、今回環境大臣が問題にしたように、CO2の排出は多いがなぜか炭素税の安い石炭発電が増えるといったことがおき、結局全世界で見たときにCO2の削減が効果的に進まないと思うからです。

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原子力発電に関する施策については次回に見ていくことにしましょう。

つづく